LIBOR (London Interbank Offered Rate = ロンドン銀行間取引金利)は、現在5通貨・7期間の35種類が毎営業日算出されています。毎ロンドン営業日ごとに予め定められたリファレンス・バンクにより提示されたレートを基に算出されます。LIBORは下図の通り、債券・貸出・デリバティブ等の巨額な金融取引に利用されていますので、このLIBORが廃止されるという事は、経済活動に大きな影響を与えることになります。
通貨 | 契約金額 |
---|---|
JPY | 30兆ドル |
USD | 150兆ドル |
EUR + EURIBOR | 152兆ドル |
GBP | 30兆ドル |
円金利スワップ | 2,453兆円 |
円CCスワップ | 305兆円 |
前述のとおり、LIBORはリファレンス・バンクから提示されたレートを基に算出されるレートであって、実際の取引に基づくレートではなく、またリファレンス・バンクには提示したレートで取引する義務もありません。その中、リファレンス・バンクのトレーダーによってLIBORの提示レートが不正操作されていたことが2012年に発覚しました。これにより、LIBORの信頼性・頑健性・公平性が疑問視されるようになりました。
LIBORの不正操作の発覚を受けて、2013年7月に、証券監督者国際機構(IOSCO)より『金融指標に関する原則の最終報告書』が公表されました。内容は主に指標算出者に係るものですが指標算出者がデータ提供者を監督することやデータ提供者に対するCode of Conductの策定を求めるなど、データ提供者に対しても間接的に影響があります。その後2014年7月、金融安定理事会(FSB)は『主要な金利指標の改革』を公表しました。
前述の通り、当初はLIBORの信頼性や頑健性を向上させる方向で改革が進められていましたが、2017年7月に当時の英国金融行為監督機構(FCA)の長官であったベイリー氏が、2021年末以降はリファレンス・バンクに対してLIBORのレート提示を強制しない旨の発言をしました。このことをきっかけに、2021年以降LIBORが恒久的に公表停止される蓋然性が高まり、各国でLIBORの恒久的な公表停止に備えた動きをはじめ、脱LIBORを図るべく新たな金利指標たるRFR(リスク・フリー・レート)の特定が行われました。
通貨 | USD | CHF | GBP | EUR | JPY |
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特定されたリスク・フ リー・レート(RFR) |
担保付O/N物調達金利 (SOFR) |
GCレポO/N物レート (SARON) |
ポンド翌日物平均金利 (SONIA) |
無担保O/N物レート(ユーロ・ショート・タイム・レート) (€STR) |
無担保コールO/N物レート (TONA) |
RFRの担保の有無 | 有担保 | 無担保 | |||
LIBORの代替指標 | SOFRに基づくターム物金利 | SARON(複利計算) | SONIAに基づくターム物金利 | €STRに基づくターム物金 利 / EURIBOR | TONAに基づくターム物金 利 / TIBOR |
マルチプル・レート・アプローチの採否 | RFRに一本化する方向で検討 | RFR 及びIBORs |
上述のとおり、LIBORが恒久的に公表停止後もLIBORを参照する契約が継続する場合、フォールバックのプロセスが必要になります。ここではフォールバックにおけるトリガーとフォールバックの導入手続き、スプレッド調整について取り上げます。
フォールバックは、LIBORが恒久的に公表停止された際に備えたものであるため、フォールバックの発動条件たるトリガーが設定されることが必要です。現在、ISDAが想定しているトリガーの例は以下の通りです。
・ すべてのJPY、CHF、EUR、GBP LIBORと1week・2MのUSD LIBORは、2021年12月31日が最終公表日である。
・ O/N・1M・3M・6M・12MのUSD LIBORは、2023年6月30日が最終公表日である。
・ USDを除くすべてのLIBORは2022年1月1日より指標性を失い、USD LIBORは2023年7月1日より指標性を失う(Index Cessation Effective Date)
・ すべてのLIBORフォールバックのスプレッド調整レートは、2021年3月5日に固定・設定されました。(Spread Adjustment Date)
フォールバックの導入手続きは、商品や契約によって異なりますが、ISDAにおいては23rd October 2020にIBOR FALLBACK PROTOCOLとして公表され、この標準化されたフォールバック条項が適用されます。なお、後継金利の決定方法には以下の方法が示されています。
ハードワイヤーアプローチ・・フォールバック条項導入時に後継金利(フォールバックレート+スプレッド)を決定
修正アプローチ・・トリガー発動時に後継金利をやその方法を決める。また、その決定を独立アドバイザーに委託する等の手段もある。
LIBORからRFRに移行するにあたっての問題点は、RFRは銀行のクレジット・リスクや流動性リスク等を含まないため、LIBORとは金利水準に差異(スプレッド)があることです。そのため、フォールバック・レートを調整することなく後継金利とすると契約当事者間で価値の移転(利益・損失)が生じてしまいます。価値の移転を最小化するにはスプレッド調整が必要です (なお、スプレッド調整をもっても価値の移転を完全に防ぐ事は不可能な点は留意が必要です)。
価値の移転を最小化するには上記の式を実現するスプレッド調整が必要です。スプレッド調整には フォワード・アプローチ 、 実績値の平均・中央値アプローチ、 スポット・アプローチが考えられましたが、
  フォールバック時のLIBORとフォールバック・レートの各々のフォワードレート間にある金利差を基に計算する方法
  過去一定期間のLIBORとフォールバック・レートの差の5y間の中央値を基に計算する方法
  フォールバック時のLIBORとフォールバック・レートの差を基に計算する方法
なお、ISDAデリバティブについては、Bloombergをフォールバックの計算者とし、過去5年のスプレッド・データの中央値を用いる方法が採用されました(上記②の方法)。 FBAK & ISDA on Bloomberg を参照。2021年3月5日のトリガー発動により固定されたISDAデリバティブのフォールバック・スプレッド調整値は以下の通りです。
通貨 | テナー | スプレッド調整値% | Ticker |
---|---|---|---|
JPY | S/N | -0.01839% | SJY00SN Index |
JPY | 1Week | -0.01981% | SJY0001W Index |
JPY | 1Month | -0.02923% | SJY0001M Index |
JPY | 2Months | -0.00449% | SJY0002M Index |
JPY | 3Months | 0.00835% | SJY0003M Index |
JPY | 6Months | 0.05809% | SJY0006M Index |
JPY | 12Months | 0.16600% | SJY0012M Index |
CHF | S/N | -0.05510% | SSF00SN Index |
CHF | 1Week | -0.07050% | SSF0001W Index |
CHF | 1Month | -0.05710% | SSF0001M Index |
CHF | 2Months | -0.02310% | SSF0002M Index |
CHF | 3Months | 0.00310% | SSF0003M Index |
CHF | 6Months | 0.07410% | SSF0006M Index |
CHF | 12Months | 0.20480% | SSF0012M Index |
EUR | O/N | 0.00170% | SEE00ON Index |
EUR | 1Week | 0.02430% | SEE0001W Index |
EUR | 1Month | 0.04560% | SEE0001M Index |
EUR | 2Months | 0.07530% | SEE0002M Index |
EUR | 3Months | 0.09620% | SEE0003M Index |
EUR | 6Months | 0.15370% | SEE0006M Index |
EUR | 12Months | 0.29930% | SEE0012M Index |
GBP | O/N | -0.00240% | SBP00ON Index |
GBP | 1Week | 0.01680% | SBP0001W Index |
GBP | 1Month | 0.03260% | SBP0001M Index |
GBP | 2Months | 0.06330% | SBP0002M Index |
GBP | 3Months | 0.11930% | SBP0003M Index |
GBP | 6Months | 0.27660% | SBP0006M Index |
GBP | 12Months | 0.46440% | SBP0012M Index |
USD | O/N | 0.00644% | SUS00ON Index |
USD | 1Week | 0.03839% | SUS0001W Index |
USD | 1Month | 0.11448% | SUS0001M Index |
USD | 2Months | 0.18456% | SUS0002M Index |
USD | 3Months | 0.26161% | SUS0003M Index |
USD | 6Months | 0.42826% | SUS0006M Index |
USD | 12Months | 0.71513% | SUS0012M Index |
IBOR-Fallbacks-LIBOR-Cessation_Announcement_20210305.pdf (bbhub.io)
FCAは新金利指標への移行困難な契約(タフレガシー)に配慮し、シンセティックライボーの適用に言及しています。これはBMRの適用内で、日本円とUSドル、英ポンド建ての1・3・6カ月物が一定期間シンセティックレートの公表を続ける仕組みを検討するというものです。円は22年末までの1年間継続する方向で協議中で、ポンドやUSドルについては期間は不明でありますが、Q2には確定する見込みです。ただFCAは、このシンセティックライボーは移行が困難なタフレガシーのみが対象であって、新規取引に用いることはできない旨を明確に言及しているので注意が必要です。
本邦におけるシンセティック円ライボーへの対応指針は金融庁、日銀から出されている、こちらのLinkを参照ください。 https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/data/rel210308a.pdf