円デリバティブの方向性とOISの現状  移行進捗表

本邦の動き

RFRの特定とTIBOR改革

本邦では2016年12月に金融機関等から構成される「リスク・フリー・レートに関する勉強会」が、日本銀行が算出・公表する無担保コールオーバーナイト物(O/N物)レートを日本円のリスクフリーレート(RFR)と特定し、2017年7月には全銀協TIBOR運営機関がTIBORの信頼性や頑健性の向上を図るべく、ウォーターフォール構造の導入などのTIBOR改革を実施しました。

LIBOR廃止に向けて

2017年7月のベイリーFCA長官(当時)の発言以後、本邦においてもLIBORの恒久的な公表停止に備えた対応の検討が中心課題となりました。この課題に対応するため、本邦では2018年8月に「日本円金利指標に関する検討委員会」が発足しました。当委員会には貸出、債券などのサブグループやワーキンググループ、タスクフォース等が設置されており、各プロダクツのLIBOR廃止に向けての対策を行っています。

LIBORの代替金利指標及びフォールバック レートの選択

LIBORの代替金利指標やフォールバック・レート選定にあたっては、以下の選択肢が主な候補になっており、各プロダクツの特性によって適切なものを選択して行くことになります。

選択肢
O/N RFR複利
(後決め)
選択肢
ターム物RFR金利
(前決め/スワップ)
選択肢
TIBOR
(前決め)
分類 TONA TONAデリバティブ IBORs
金利指標が依拠するレート TONA 円OIS TIBOR
金利指標の参照期間 下図 下図

下図

下図

選択肢 について、デリバティブについては現行のOISと同様に【Delay】方式が採用される方向で固まっています

上記の選択肢 のターム物RFRについて、日本円金利についてはQUICK社より2020年5月からTORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)の参考値が公表されてます。2021 Q2からは実際の取引に用いるためのTORFの確報値が公表される予定です。

日本円金利指標に関する検討委員会では、金利が先に決定することから選択肢 の前決めRFRや選択肢 のTIBORが使いやすいといった声が聞かれました。LIBORも前決めであることから、前決めの金利指標に整合性があるとの声も多くあります。

一方でISDAデリバティブは、フォールバックレートとして選択肢(1)の後決めRFR方式を選択しました。
本邦においても、新しく出来るTORFの活用を模索しつつ、TONAの取引も今後増えていくことが予想されます。

OISとLIBORスワップの違い

OISとLiborスワップの違いは以下の通りです。

  1. LIBORは金利の計算期間に先立って適用金利が確定していますが、OISは計算期間と参照期間がほぼ同期間であるので適用金利が確定するのは計算期間経過後となります。よって、LIBORスワップのキャッシュ・フローの発生日はリセット日や満期日になりますが、OISは満期日に金利計算の必要があるため、キャッシュ・フローの発生日は満期日から2営業日後です。そのため、LIBORとOISの満期日が同一でも、将来キャッシュ・フローの現在価値は若干異なることになります。
  2. LIBORは前決めの金利であるため将来の金利水準を予想したレートですが、OISは後決めの金利であるため計算期間中に実際に実現した金利水準を反映したものとなります。
  3. LIBORはクレジット・リスクや流動性リスクを含みますが、無担保コールO/N物を原資産とするOISに含まれるクレジット・リスク等は極めて限定的です。よって、金融危機などが生じた場合、LIBOR-OISスプレッドが拡大することがあります。
  4. キャッシュ・フローのタイミングが異なります。LIBORスワップの場合、固定金利・変動金利ともに半年ごと年2回や四半期ごと4回といったものや、固定金利は年1回に対して変動金利は年4回など、様々な組み合わせが取引されているのに対し、インターバンクでのOIS取引は基本的に固定金利・変動金利ともに年1回の差金決済となります。満期1年以下の場合、現状JSCCでは1m・3m・6m・1y満期については、1回の差金決済を設定しています。ただし、OISが論理必然的に年1回のキャッシュ・フローとなる事を意味するのではなく、今後インターバンクOISに関しても3か月や6か月ロールといったものが登場し、キャッシュ・フローが多様化する可能性があります。

OIS取引の現状

現状、日本円の金利スワップに関してはLIBORからRFRへの移行が進んでいると言える状況にはありません。

ISDA-Clarus RFR Adoption Indicatorによると、2020年10月の円金利デリバティブ取引のうち、RFRに関連する取引はわずか4.7%(DV01ベースで算出)でした。

英ポンドについては、GBP金利デリバティブのうち40.4%がRFR (SONIA)に関連する取引で、LIBORからの移行が進んでいます。USDについても、足元の割合は9.7%とまだ低水準ではありますが、前月の2020年9月から約67%増加しています。これは10月よりUSD建て公的ローンにSOFRの適用を開始したことや、LCH・CMEといった主要CCPがPAIやディスカウンティングの算出にSOFRの適用を開始したことが影響していると思われ、今後もSOFRデリバティブの取引の増加が見込まれます。

実際のRFRへの移行進捗はこちらを参照ください。
ISDA-Clarus RFR Adoption Indicator (clarusft.com)

円OISに関しては流動性の向上もさることながら、CLOBの活用を促したり、短期のOISについてはアマウントを提示したオーダーを出すことを慣行とするなど、取引慣行の再整備も必要であると考えます。


OISへの移行スケジュール

25/1/2021 ISDAが2020年10月23日に公表したProtocolの効力が発生。Supplemnetにはフォールバック条項などを含む。
5/3/2021 FCAよりLIBORの恒久的停止に関する声明が発表され、これによりLIBORとRFRのフォールバックスプレッド値が固定された。
31/3/2021 ディーラーは、USDデリバティブのクオートをLIBORからSOFRへ移行。
31/3/2021 GBP-LIBORデリバティブ及びLIBOR参照キャッシュ商品について、2021年末以降に満期を迎える取引を停止。
26/4/2021 Quickベンチマークスが1m,3m,6m TORFの確定値の公表開始。
30/6/2021 円LIBOR参照のビジネスローンや変動金利証券化商品の新規取引を停止。
30/6/2021 USD-LIBOR参照のビジネスローンや、CLOを除く変動金利証券化商品及びデリバティブ取引においてLIBORリスクを増加させる取引を停止。
30/7/2021 円金利スワップ市場におけるQuoteをLIBORからTONAベースに移行。
2021年2Q~3Q GBP-LIBOR参照の非線形デリバティブ及びクロス・カレンシーデリバティブについて2021年末以降に満期を迎える取引を停止。
30/9/2021 USD-LIBOR参照のローン担保証券(CLO)の発行を停止。
30/9/2021 円金利スワップ市場におけるLIBOR参照の新規取引を停止。
2021年末 LIBORの恒久的な公表停止。(USD LIBOR 1,3,6m and 1y は2023年 6月末停止)

LIBOR の恒久的な公表停止に備えた本邦での移行計画